12月5日の夜、ドイツの家々の玄関には、ぴかぴかに磨かれた子どもの靴が並びます。翌朝、靴の中にはみかんやナッツ、チョコレートが入っています。12月6日は「聖ニコラウスの日(Nikolaustag)」です。

このコラムでは、ドイツで子育てをしている方や、ドイツで冬を迎える方に向けて、聖ニコラウスとはどんな人だったのか、靴を置く習慣はどのように生まれたのか、黒い服の従者クネヒト・ループレヒトの話、そしてラインラントのパン「ヴェックマン」との関係を紹介します。サンタクロースとのつながりも分かり、ドイツの12月がもっと楽しくなるはずです。

ニコラウスは、4世紀の司教だった

聖ニコラウスは、実在した人物がもとになっています。

カトリック教会のポータルサイトによると、ニコラウスは4世紀に小アジアの町ミラ(今のトルコ南部のデムレ)で司教を務めた人物です。亡くなったのは345年から351年の間の12月6日とされ、この日が記念日になりました(katholisch.de:ニコラウス 確かな事実)。ただし、実際の生涯についての記録はほとんど残っておらず、後の時代には、564年に亡くなった同じ名前の修道院長の話とも混ざって語られるようになったといわれます(同上)。

3つの金の玉の伝説

ニコラウスの伝説で最もよく知られているのが、貧しい家の3人の娘の話です。

ケルン大司教区によると、ある貧しい父親は、娘たちを結婚させるお金がなく、困り果てていました。それを知ったニコラウスは、夜にこっそり窓から金の塊を投げ入れ、娘たちを救ったと伝えられています(ケルン大司教区)。この話から、ニコラウスは「こっそり贈り物をする人」になりました。絵や像で、ニコラウスが3つの金の玉を持っているのは、この伝説にちなんだものです(katholisch.de)。

ほかにも、嵐の海で船乗りを救った話などが伝わり、ニコラウスは船乗りの守護聖人としても知られています。

靴を置く習慣は「紙の船」から

12月5日の夜に靴を玄関に置くと、6日の朝にはお菓子が入っている。この習慣のルーツについて、カトリック教会のポータルサイトは、昔の子どもたちが紙で船を作り、ニコラウスからの贈り物を入れてもらおうとした「船を置く」習慣にさかのぼると説明しています(katholisch.de)。船乗りの守護聖人らしい始まりです。

今では、家の玄関や子ども部屋のドアの前に、きれいに磨いた靴や長靴を置くのが一般的です。中に入るのは、みかん、くるみ、ピーナッツ、チョコレートのニコラウス人形などです。幼稚園や学校でも、ニコラウスの格好をした人が来てお菓子を配る行事がよく行われます。

2026年の12月6日は日曜日で、第2アドベントと同じ日です。アドベントの習慣は「アドベントクランツとアドベントカレンダーはドイツ生まれ?」で紹介しています。

12月5日の夜に靴を置き、6日の朝にお菓子が入っている流れと、ニコラウスの伝説(3つの金の玉、船乗りの守護聖人)を示した図
図解:J-Connect。katholisch.deとケルン大司教区の資料に基づく(2026年10月29日参照)。

黒い服の従者「クネヒト・ループレヒト」

ドイツのニコラウスの話には、ちょっと怖い相棒が登場します。黒っぽい服を着て、袋とむちを持った従者「クネヒト・ループレヒト(Knecht Ruprecht)」です。

カトリック教会のポータルサイトによると、クネヒト・ループレヒトは16世紀から記録に残っていて、もともとは子どもたちに行いを正させるための「怖い存在」でした。むちを持った、司教の反対側の役回りです。やがて、贈り物を運ぶ手伝い役へと変わっていきました(katholisch.de)。

地域によって、似た役回りの人物の名前や姿はさまざまです。ルクセンブルクでは、贈り物を持ってくるのは「クレースヒェン(Kleeschen)」と呼ばれ、12月6日は学校がお休みになるそうです(katholisch.de:クレースヒェンたち)。

ラインラントのパン「ヴェックマン」

ラインラントで暮らしていると、11月から12月にかけて、パン屋さんに人の形をした甘いパンが並びます。これが「ヴェックマン(Weckmann)」です。

ラインラント地域連合(LVR)によると、ヴェックマンは小麦粉で作る人の形のパンで、レーズンの目を付け、白い陶器のパイプを差していることがよくあります。地域によって呼び名が違い、ルール地方や下ライン地方では「シュトゥーテンケール(Stutenkerl)」とも呼ばれます(LVR 方言地図・LVR 地域研究所)。

このパンの人形は、もともと司教ニコラウスの姿を表したもので、ラインラントではかつてニコラウスの日に焼かれていました。今では、ニコラウスの日より前から店に並び、11月11日の聖マルティン祭にも欠かせないパンになっています(LVR:ヴェックマンのラインラントの祖先)。聖マルティン祭については「コメルンの聖マルティン祭2026」で紹介しています。

ヴェックマンはレーズンの目と陶器のパイプが付いた人の形のパンで、地域によってシュトゥーテンケールなどと呼ばれ、もとは司教ニコラウスの姿を表していたことを示した図
図解:J-Connect。LVR(ラインラント地域連合)の資料に基づく(2026年10月29日参照)。

サンタクロースとクリストキント

ニコラウスは、オランダ語の「シンタクラース」などを通じて、のちにアメリカで「サンタクロース」として広まったといわれています。ドイツでは、サンタクロースのような姿の贈り物の運び手は「ヴァイナハツマン(Weihnachtsmann)」と呼ばれます。

一方で、ドイツの南部や西部では、クリスマスに贈り物を持ってくるのは「クリストキント(Christkind)」とされることも多くあります。カトリック教会のポータルサイトによると、宗教改革を進めたマルティン・ルターが、聖人を記念するニコラウスの日に代わって、クリスマスに子どもたちへ贈り物をする習慣を広めようとしたことが、クリストキントの始まりにつながったとされます(katholisch.de:いつもクリストキントとは限らない)。

つまりドイツの子どもたちは、12月6日にニコラウスから、そしてクリスマスにはクリストキントやヴァイナハツマンから、2回贈り物をもらえることが多いのです。

家庭で楽しむヒント

  1. 靴をきれいに磨いておく:「きれいな靴にしか入れてもらえない」と言われることもあり、前の晩に家族で靴を磨くのも楽しい準備です。
  2. 中身はささやかに:みかん、ナッツ、チョコレートの人形など、小さなものが定番です。大きな贈り物はクリスマスに取っておく家庭が多いようです。
  3. 幼稚園や学校の行事を確認:12月6日の前後に、ニコラウスが来る行事があることがあります。お便りを確認しておきましょう。
  4. ヴェックマンを味わう:パン屋さんで1つ買って、パイプが付いているか確かめてみてください。

12月6日の朝、靴の中のみかんを見つけた子どもの笑顔は、4世紀の司教の伝説が、今もドイツの家庭に生きている証です。

参考情報(2026年10月29日参照)

本記事は公開情報をもとにした文化紹介です。習慣の始まりには諸説あり、地域や家庭によって過ごし方は異なります。

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